夏と冬と春に

三木ヱ門






文を送ろう




長い長い夏休み｡
今回は休みでなくなることもなく､意味が分からない課題に追われることもなく｡日々鍛錬に励むのは変わらないが､ユリコたち全てを持ち帰るなんてことは出来ないので少しだけ連れてきている｡

寂しい…？

とふと思った｡
サチコ３世を置いてきたからキューちゃんが､というのとは違う寂しさ｡それはそれで寂しいのだが｡
余りにも騒々しい毎日に慣れてしまっているから､それとも｡

――今回は殊更､か｡

闇夜に紛れて忍ぶ理由も､
月明かりを有り難くて邪魔だと思う理由もここにはない｡
すぐに離れるのは分かり切っていた｡休みとかそんなレベルでないことも､万が一よりも高い可能性で信じたくない事態があることも｡

――今はまだ､先の話だ｡

そう言い聞かせて目を瞑る｡
浮かぶあの人｡
体も心も攫っていった｡

文でも送るか､と考えてクスリと笑う｡
あの人はどんな顔をするだろうと想像して｡





先輩､調子はいかがですか
壊される物が少なくて穏やかな日々を過ごされていればいいと思います
こちらも変わりなく､家は静かで､学園の騒々しさが少し懐かしいくらいです


筆を止めて､部屋の中を､庭を見る｡
手裏剣の刺さった跡
少し焦げた板
片づけ忘れた紅用の小皿

忍術の気配はそこかしこから､それでも学園に結びつける物は数少ない｡
荷物の中の忍たまの友や庭の隅に隠れてはためく忍装束｡

今はもう消えてしまった､見えない部分に散った鬱血の跡｡
チリ､と胸の奥が焦げた気がした｡


近況をもう少し書き連ね､学園で､と書き結ぶ｡
僅かに考えた後､一言だけ付け足して折り畳む｡







追伸
会えなくて､寂しいです







バカみたいだ､と口元に手をやった｡
寂しいだなんて｡
書く意味なんかないというのに｡