残した一歩 ４

団蔵は素直な子なので、
疑問とか直球で投げればいいと思います。
時として、大人な心を持っていると、受け止めにくいこともあるもんですよね。






























｢ねぇ先輩｣
｢どうした｣
｢先輩にも､好きな人っているんですか｣
｢あぁ！？｣

…最近の団蔵は何を言い出すか判らない｡
正直困る｡物凄く困る｡勘弁してくれ｡
ていうか､もって何だ｡先輩もって｡複数かよ｡

｢…何でそうなるんだよ｣
団蔵が､えー？と首を傾げる｡
いやいや｡首を傾げたいのは俺だ｡本気で｡
｢きり丸が､潮江先輩って時々土井先生っぽい顔をする気がするんだよなー…って言ってたんです｣
｢…それが何で｣
｢だって｣
申し訳ないような面白いような､という顔をする｡
…くそ､殴ってやりてぇ｡
｢だって？｣
｢土井先生が､好きな人の話をする時に似てる気がするなぁって｣
おいおいおい｡
何を言ってんだ､きり丸の奴…!
思わず盛大に溜息を吐いてしまう｡
｢…いや…土井先生は知らんが､俺に関しては気のせいじゃねぇか｣
もう見間違いということにしてくれ､お願いだから｡
小銭をやっても良いくらいだ｡
｢そうですかねー？きり丸ってそういうの目聡そうなんだけどなぁ…｣
｢そこまでは知らんが｣
｢気のせいなのかなぁ…｣
｢気のせいだろ｣
｢そっかー…違うんですかー｣
｢何で残念がるんだよ｣
目に見えてガッカリする団蔵に目線を合わせる為にしゃがんでやる｡
｢教えて貰おうと思ってたんですよ～…｣
｢教えるって､何を｣
あぁ､あまり良い予感がしないな､この流れ｡
｢好きだなぁってどんな感じなのかなぁって｣
｢…どんな感じってなぁ…｣
ほら見ろ｡
悪い予感は当たるもんだ｡
｢土井先生に聞いてみたらどうだ？｣
｢まぁ､そうなんですけど…きり丸は先生の家でお世話になったりするから｣
｢あー､なるほどね｣
そういう話を大っぴらにしていた訳ではないらしい｡
｢先輩が１番聞きやすいんですよ～｣
よ～､じゃない｡
他の忍者に関する相談ならまだしも､色恋沙汰の質問をしやすいってのはどういう事だ｡
…俺と長次は縁遠く見えるタイプだろうが｡
｢何で俺だよ…そういうのは伊作か仙蔵じゃないのかよ｣
｢そうなんですかねー｣
｢まぁ一般的にはそうじゃないのか？｣
１０人の下級生に聞いてみろ｡
伊作６､仙蔵３､俺は１あるかないかってのが良いところだ｡

｢ふーん…で､好きな人いないんですか？｣
｢…そんな気持ちを打ち明けたい奴は居ねぇな｣
｢…そうですかー｣
｢だからまぁ､好きだなっつうのは食満か綾部か田村に聞け｡土井先生でも良いから｡とにかく俺に聞くなよ｣
｢はーい｣
だから何故そこでガッカリするんだ｡
｢…あのな｣
｢はい？｣

｢お前､前に言ってただろ､土井先生が優しく笑ってたってよ｡だからな､そいつの事を考えたら自然にそんな顔になっちまうとかよ､好きってそーゆう事じゃねーかと､俺は思う｣
俺を見上げる視線が痛い｡らしくないことを言ってんだよ｡判ってるっつのだから見るなよ!!恥ずかしい｡
｢…そうですね｣

まぁ｡
団蔵が笑ったから良しとしようと思ったこれが好きだって事なんだろうな｡