綾部編

次は綾部にしてみました｡
彼はひたすら片想い｡









｢土井先生｣
｢…綾部？｣
廊下を歩いていたら呼び止められた｡
声の主は庭で蛸壺を掘っている｡
あぁ､今日は綾部なのか｡
……全く､最近の生徒事情はどうなっているんだろう｡
どうした､と聞けば顔について泥を拭いながら側に寄ってきた｡

｢片想いってイヤですね｣
嫌だと言いいながらも､どこかどうでも良さそうに見えるのは､彼の性格の為だろうか｡

｢それは､綾部､お前の話か…？｣
｢……？ 他に誰か｣
まぁ､いるはずないよな｡
周りに特に気配がないことを確認しながら､話を聞こうか､と蛸壺近くの岩に腰をおろした｡


｢他に良い人が居るだろうと言われるんです｣
ざく
ポツンと呟く｡
｢私は貴方をそういう風には見れませんと｣
ざくざく
穴が深くなっていく｡
｢だから諦めてと言う癖に､思いついたかのように私を抱きしめる｣
ざくざくざく
手が止まる｡
｢好意を感じながら､あきらめられるはずないじゃないですか…!｣
穴の中にしゃがみ込むのを見守った｡
｢他の人を見付けようとしてみたって簡単じゃない｣
泣いているのかと思った｡
声も変わりなく全く震えてないから､実際には違うのだろうけれど｡
｢…あの人が良いのに｡…迷惑にしかならないのも嫌だけど…｣

｢…綾部…｣

｢すみません､先生｣
穴の中で立ち上がる｡
｢取り乱して｣
｢いや…｣

｢ちょっとだけ誰かに話したかっただけな気がします｣
そういって､穴から出てきた｡
｢ほんと､他に誰か居たら良いんですけど｣
少し笑う姿に胸が痛んだ｡

｢呼び止めてすみません｡本当に､用なんてなくて｡これだけなんです｣

｢そう｣
じゃあ､と言って私も立ち上がる｡

｢またおいで｣